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晴交雨獨

ライバル

鈴鹿 1989

一番速く走れる車を駆って追いつづける。一番速く走れる一筋のラインをトレースして行く。300k/hを優に超えるスピードで。周回は続く。いつしか2台の車は一つの塊のようにすら見えてくる。お互いは憎悪の固まりである。にもかかわらずまるでランデブーをしているかのごとく。この車をこのコースをこのスピードでこのタイムで走れるのは世界でたった二人。それがどんな事か解っているのは世界でたった二人。

turn ON

長嶋は自らをバット・マンと称する。センスはもちろん練習も自分が一番であると誇っていたと思う。しかしその眼前に王が登場した。1962年変則的なフォームから本塁打を量産し始めるとあっという間にトップへと踊り出した。いきなり2冠。本塁打を量産すれば打点も上がる。王が塁上のランナーをクリーンアップしたあと登場する長嶋は打点に関しては不利である。1963年は長嶋は3冠のチャンスだった。打率と打点を制する。しかしデッドボールでの欠場が響き本塁打は3本差で2位に終る。翌1964年になると王は打点王になり本塁打は日本記録の55本。ただ打率は江藤(ドラゴンズ)に3厘差で惜しくも逃す。1965年は同じく江藤が首位打者であるが差は1分以上開く。この頃になると本塁打と打点はもう王の指定席という感が強くなる。ただ四球が120以上。きわどい球も多くしっかり選球しなければフォームを崩すことになり、打率にも影響がでる。ベストテンの上位ではあるがトップとの差は開く。一方長嶋は入団10年目の1967年は打率でも柴田や土井に越され不調に終る。

王派、長嶋派などいう呼び方も出てくる。確かに二人は心休まる仲良しではない。連れ立って飲みにいく事も滅多に無い。相手の事を貶しながら近づいて取り巻きになろうとするものもある。がどれだけ厳しい練習をしているかはお互いが一番良く知っている。色々な分析はあるだろうが、互いに切磋琢磨し高めた打撃こそがチームの連覇の中心である事は間違いない。相手が1000回スウィングするならオレは1001回する。

1968年円熟期を迎えた王はいよいよ打者としての最高の称号3冠王へと近づく。精神的にも落ち着き際どい球を選び、四球攻めにも耐え、遂に首位打者に輝く。しかも68、69、70年と3年連続の首位打者である。最早遮るものはないはずである。しかし4年連続してきた打点王を阻止したのは長嶋だった。当時のジャイアンツは1番に柴田が座り塁に出れば盗塁。出来ない場合は2番がチームバッティングでスコアリング・ポジションへと進める。(ただし犠打−バンドはそれほど多くない。実動年数もあるのだが土井の通算の犠打は242。ちなみに川相は450以上の犠打がある)王は3番を打つ事が多く、しばしばクリーン・アップしてしまう。長嶋には王が敬遠されるかランナーを残した場合で無ければ打点にならない。しかも王は首位打者である。この環境での打点王。チャンスに強いくらいでは取れるものではないだろう。塁に居るランナーは全て一人残らず徹底的に帰す。失敗は許されない。

圧巻は1970年である。この年入団以来の不調であった長島は2692で終っている。そのために3番を打つ事があったとは言え首位打者の王に12点の差を付けての打点王。

王が再び打点王を取り返すのは1971年である。以降引退の前々年1978年まで打点王が続く。が、今度は打率を大幅に落とす。一方前年2692でピークを過ぎたと言われた男が320を打ち首位打者に輝く。王が3冠を手にするのは1973年。長嶋引退の前年である。そして翌長嶋引退の74年に2年続けてのそして王にとっては最後の3冠に輝く。

  長嶋茂雄 王貞治
  打率 打点 本塁打 打率 打点 本塁打
1962 2876 5 80 2 25 2 272 9 85 1 38 1
1963 341 1 112 1 37 2 3054 3 106 2 40 1
1964 314 4 90 3 31 3 320 2 119 1 55 1
1965 300 5 80 2 17 8 322 2 104 1 42 1
1966 344 1 105 2 26 2 311 5 116 1 48 1
1967 283 12 77 6 19 8 326 3 108 1 47 1
1968 318 2 125 1 39 3 326 1 119 2 49 1
1969 311 3 115 1 32 4 345 1 103 2 44 1
1970 2692 10 105 1 22 5 325 1 93 2 47 1
1971 320 1 86 2 34 2 276 8 101 1 39 1
1972 266   92 3 27 4 296 3 120 1 48 1
1973 2692 13 76 4 20 6 355 1 114 1 51 1
1974 244   55 14 15   332 1 107 1 49 1
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