晴交雨獨 No.18 | prev | next |

メッセージ

旅路の崖て

メジャーリーグのオールスター戦はイチローから始まり佐々木で締めるという日本向けの展開で、感慨も一入。印象的なシーンはいろいろあったけれど面白かったのは試合開始前にスターターがホームベース前に集まったところ。アナウンスで登場したアメリカンリーグの1番バッターにナショナルリーグの監督が一言言葉を掛けている。地の崖てのローカルリーグを結果的には追われた二人がこのスターの中のスターだけに許されたフィールドで再会を果たす。

ながきに渡ってBクラスのチームを1年で2位に押し上げた。にもかかわらずチームを追われたボビー・バレンタイン。更迭された理由は彼がGMより目立った事ではなく、選手の育成をしていないとの事。きっと彼の去ったチームはその後育成に努めたのでしょう。元どおり万年Bクラスに安住している。
リーグの隆盛には大きく貢献していると思われた8年連続の首位打者は、その人気が面白くない投手に射的の的よろしくボールをぶつけられ続け選手生命の危機に晒された。日本のバッターボックスに追い立てられた打者は他に場所を見つけるしかなくなった。

気概

逆指名などが無い時代にも、それでも選手は希望球団を上げていた。在京の球団、セ・リーグなど希望は偏りを見せていた。こういう時に新聞などでは「自分が入って強いジャイアンツを破って優勝させてやるというくらいの気持ちが無いのは嘆かわしい」などと無責任な記事が踊っていた。しかし端からというより球団に優勝の意欲が無いのだ。そんなところに入って優勝など出来るのだろうか?いや、もしかするとこの手の記事を書いた人は、みんな本気で優勝しようと思っていたのかも知れない。

今年出版された江夏豊自伝「左腕の誇り(草思社刊)」の本には衝撃的な告白があった。
1973年のシーズンはそれまで8年連続で優勝してきたジャイアンツに陰りが見えていた。終盤タイガースはかなりの高率でペナントを奪取できると思われていた。ところがなんとタイガースの幹部から彼に優勝するなと依頼があったという。理由は優勝すると年俸のアッブを含めて金が掛かるという。にわかには信じがたい話ではあるが、しかし終盤戦の投手起用にはなんとも釈然としないものがあった。当時の監督もこの要請を了承していたというのだからそのつもりだったのだろう。そしてまた語り種になっている129試合目、中日球場のゲームは敗退行為の疑念さえ沸いてきた。この試合のドラゴンズのマウンドには星野(現ドラゴンズ監督)が居た。ジャイアンツの9年連続の優勝に荷担するのは面白くない彼は力の入らない投球をしていたという。にもかかわらず相手のチームから優勝しようという熱意が伝わってこない。中盤、セカンドを守っていた高木守道がマウンドにやってきた。「こんな連中に優勝させる事はない」。当然の事ながらタイガースは敗れた。それでも直接対決でのジャイアンツ・最終戦に勝てば優勝できたタイガースはやはり大敗した。この試合がどれほどタイガースファンを落胆させたかはたとえば北杜夫さんの観戦記「精も根も尽きはてるの記(マンボウ博士と怪人マブゼ:所収 新潮社刊)」などに詳しい。

タイガースが江夏を訴えたという話は聞かない。では事実なのだろうか?なにはともあれ球団が優勝するなという方向で動いていたのさ。そんなもの気概があっても無意味だろう。

また例えば一時のスワローズのように最下位ゆえにドラフトの目玉選手を指名できるがことごとく潰す、理由は分からないが、ともかくものにしないチームもあった。にもかかわらずこういった球団の体制や首脳陣に対して批判の記事は出なかった。もとよりイコールではない各球団の体制を質していくのがメディアの責任ではなかったのか?彼らは年若い選手には信じられない過大な希望を押し付けるくせに自らはそれに匹敵するような取材をしたのだろうか?

もちろん中には現状改善していこうとした選手居る。落合は日本野球機構が正式に定めた野球協約に従い自らの権利を行使した。この時のメディアの対応はどうであったか?俺流、自分勝手、ワガママ、こういった見出しが躍っていた。彼が健気にも改革を実行しようとして時に足を引っ張り専ら(現状改善しようという意欲の見られない)球団よりの記事を書いたのは誰だったのか?OB達も保身の為か、嫉妬の為か事勿れ主義を通し、落合批判を繰り返した。また選手には守秘義務を押し付けるくせにみずからは人事に関して意図的なリークを繰り返す球団関係者には何の批判もしないのである。こういった事が果たしてリーグの発展に寄与したと思っているのだろうか?

競争

イチロー選手のコメントが取れない、面白い話をしてくれないと怒り、その腹いせの如く日本の球界に育ててもらったのに、すっかりメジャーに染まって日本の子供にメッセージを送っていない、なんてお門違いのトンデモナイ記事が書かれている。本当?子供はオモシロメッセージをを期待しているだろうか?彼の試合での活躍こそが、いやそれだけがメッセージになるはず。なまじ言葉でいうより遥かに効果的だと思う。またイチローはほんとのメジャーリーグのプレーをしてない、また全米で知られているわけではないなどと当たり前の話をさも知られていない事のように書いている。もともと全米中継は週末に選ばれたカードしか放送されていないし、そのなかでも一地方チームメンバーである。ニューメキシコの片田舎の人が知っているわけもない。大体日本が何処にあるかも知らない人が沢山居るのだから。その視点で記事を書くならそれもまた一つの見識だけど、まあそうなると「世界の王」なんてダァレも知らないと言う事になるだろう。(もっとも世界には何処に居ようと無闇と詳しい人もいるのでファイターズの2軍の選手にとても詳しいアメリカ人がいても不思議ではないよね)

日本のプロ野球がメジャー・リーグとの比較で粗が目立ち出している。面白い事に結果的に日本のメディアも競争に晒されることになった。まだまだ日本語という閉じられた空間でのアドバンテージに守られているけど、翻訳ソフトがもっと進んだら?どうなるかな

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